MBLD解説

2015/09/23 更新

目次

  1. はじめに
  2. Example Solve
  3. 記憶について
  4. おわりに

1. はじめに

アクセスありがとうございます!本ページでは,MBLD 歴 3 ヶ月で日本記録を取った筆者の解き方をご紹介します.解き方との相性は人それぞれだと思うので,「このやり方をすれば必ず伸びる」というわけではありません.「こういう解き方をしている人もいるんだなー」くらいの軽い気持ちでこの記事を読んでくれると嬉しいです.その中で,どこか参考にしてもらえる部分があれば幸いです.

私はキューブ歴が浅く,専門的な知識をあまり持ち合わせていないので,解説におかしな点が多々あるかもしれませんが,ご容赦ください.また,この解説は,3BLD が出来るかつ MBLD のルールを知っている人向けに書いています.

では,私がどのような解き方をしているのか,20 個に挑戦する場合を例にとって解説していきたいと思います.(2014 年 12 月現在公式 PB 17 / 19 59:51 非公式 PB 23 / 23 56:02 です)

※WRCC の皆さんは MBLD 10 / 10 以上が必修です.また,日本記録を抜いてくれた方には高級焼肉をご馳走します.頑張りましょう!

【追記】叙々苑チャレンジは,2015年9月21日をもちまして終了いたしました.

2. Example Solve

実際に家で 20 個に挑戦しながら,色々調べてみました.それらを踏まえて,私がどう解いているのか,大まかに解説したいと思います.※あくまで 2014 年 12月現在の話です.

(1) 全体の流れ

下表のような流れになっています.

キューブの個数 分析・記憶 (time) 確認 (time)  思い出せた数 (letters) 実行
1 ~ 5 個目 2:40 1:32 94 / 96  
6 ~ 10 個目 3:15      
1 ~ 10 個目    3:26 191 / 195  
11 ~ 15 個目 2:53      
6 ~ 15 個目   3:11 197 / 201  
15 ~ 19 個目 2:47      
11 ~ 19 個目   2:43 176 / 176  
1 ~ 19 個目   4:52 371 / 371  
20 個目 0:45      
20 → 1 → 2 → … → 19 の順に実行       17:55 

記録 19 / 20 45:59 (EP3) [分析・記憶 12:20 (計 1 周) 確認 15:44 (計 3 周) 実行 17:55]

(2) 分析・記憶

分析をしながらどう覚えるかを決める段階です (ここでは思い出す作業はふくみません) .この一回の分析・記憶で 98 ~ 100 % の文字が定着します.分析・記憶については後で詳しく解説します.

※記憶のプロセスは,基本的に「覚える・保持する・思い出す」ですが,ここでは便宜上「思い出す」を含めないものを記憶とします.

(3) 確認

分析・記憶が正しく出来ているかを確かめる段階です.MBLD は 1 個の失敗がかなり記録に響くので,この作業はとても重要です.時間が許す限り,自分が絶対に分析ミスをしていないと確信が持てるまではこれをやるようにしています.それでも時々間違えます(笑)

1 周目の確認では,キューブを見ないで文字を思い出して,思い出したらそのパーツを見て辿っていくようにして,正しく分析・記憶が出来ているかを同時に確認しています.

また,実行する直前に 1 個目から 19 個目まで一気に確認しますが,この時は反射的に全部の文字がぽんぽん出てくる状態になっているので,それによって自信をつけて,実行前に豆腐メンタルを落ち着けます (落ち着いたら苦労はない).

(4) 実行

目隠しをしてキューブを解く段階です.私は M2 + Old Pochmann で解いているので,かなり時間がかかります.実行を速くしたいという方はこちら

corner 3-style (DRF buffer) edge 3-style (DF buffer)

を読んで圧倒的成長‼︎してください.

最終的には反射的に文字が出てくるレベルまで強力に記憶されているので,実行時はほとんど止まらずにキューブを回すことが出来ます.この時,回し間違いや取り違えをしないように気をつけます.

※ 実行時の競技環境について

机は広い方,目隠しの板は競技卓に置くタイプ以外がベストだと思います!(写真参照)

机のサイズは変えられませんが,目隠しの板のタイプは選べる場合があると思います (US Nationalsだと3種類もありました).競技卓に置くタイプだと使えるスペースが減ります.また,目の前に障害物が置かれることで手が自由に動かせなくなり,それ以外のタイプと比べて,キューブを取るのも解くのも並べるのも困難になります.

zako1

図1. 机が広いかつジャッジに持ってもらうタイプ

zako2

図2. 机が狭いかつ競技卓に置くタイプ

挑戦する個数が多ければ多いほど必要スペースは増え,1 秒の重みも増すので,競技卓に置くタイプはデメリットしかありません.実際世界で 20 個以上挑戦する人でそのタイプを使っている人はほとんどいないと思います.

ジャッジに板を持ってもらう場合ですが,何十分も板を持つことはとても辛いことなので,それでも快く引き受けてくれる方だけにお願いするようにしています.

3. 記憶について

(1) 心構え

記憶をする上で何よりも大事なことは,「覚えることに興味を持つこと」「覚えられて当たり前と思い込むこと」です.これ以降の解説は全部いらないんじゃないかってくらい大事です!誰だって,興味があるものはすぐ覚えられると思いますし,できて当たり前と思い込むことによって案外ノリでいけることもあります.MBLD で必要な長期記憶は,短期記憶と違って膨大な量を記憶することができます.一説によると,元々の記憶力には,個人差はほとんどないそうです(例外除く).どんなに「自分は記憶力が悪い」と思っている人でもキューブ 20 個分覚えられるだけの記憶容量はあります.それをしっかり使うために,「無理」「できない」という気持ちは捨てましょう.

(2) 事前準備

私は複数あるキューブの記憶が混ざらないようにするために,「場所法」というものを使用しています.場所法とは,場所と記憶対象を関連付けて記憶する方法です.3BLD 圧倒的日本記録保持者たくさんに教えていただきました!

TAKU's BLOG 大学生スピードキューバーのブログ

これを使っただけで,記憶速度が格段に上がりました,私が日本記録を取れた要因の 8 割くらいは場所法のおかげです.ぜひ使うことをおすすめします.

私は.1 つのキューブにつき 5 つチェックポイントを用意し,ポイント 1 つにつき 4 文字分の記憶をあてるようにしています.スクランブル次第では,0 文字や 5 文字になることもあります.20 個に挑戦する場合,私は 20 個目を3BLD と同じ要領で解くので,準備する場所は 19 個になります.下が私の場所法のチェックポイントです.

※私は記憶対象を直接チェックポイントに配置するやり方はほとんどしていないので,チェックポイント間の距離やルートがぐちゃぐちゃな上に,似たようなところを何度も通ったりしていますが,もし記憶対象をチェックポイントに直接配置してイメージするやり方で覚える場合は,混ざりにくくなるようなわかりやすいチェックポイントを作ることをおすすめします.

1. 東京 2. 東京 3. 東京 4. 東京 5. 東京 6. 地元 7. 地元
家1 電車1 電車2 南門 戸山公園 家2 体育館
ビデオ店 家電量販店 そば屋 コンビニ2 紳士服量販店 古本屋 グラウンド
コンビニ1 ゲーセン1 N号館 かふぇぇ 駅2 スーパー1 コンビニ3
靴屋 商業施設 カレー屋 たこやき屋 ゲーセン2 大学3 河川敷
駅1 寮1 北門 大学1 大学2 高校 橋1
8. 地元 9. 地元 → 東京 10. 東京 11. 地元 12. 地元 13. 東京 14. 東京
コンビニ4 バス停1 電車4 バス停2 駐車場 駅7 駅9
コンビニ5 バス 駅6 コンビニ6 食品売場 電車5 電車6
百貨店 駅4 スーパー2 結婚式場 レストラン街 駅8 空港
カラオケ 電車3 牛丼屋 幼稚園 映画館 橋2 税関
駅3 駅5 楽器屋 スーパー3 フードコート ビル 搭乗口
15. イギリス 16. 上海 17. 北京 18. 北京 19. アメリカ
寮2 寮3 寮4 ジュース店 飛行機
座談室 ロビー 銭湯 Hotel
食堂 豫園 テニスコート 学食 科学館
教室1 小龍包店 銀行
教室2 駅10 スーパー4 しゃぶしゃぶ 自由の女神

(3) 分析・記憶開始

場所法で決めたチェックポイントを想像し,分析をして得られた 4 文字をどう覚えるか考えます.以下の優先順位で考え,覚え方が定まったら次のチェックポイントにあたる文字を分析し,同じことを続けていきます.キューブ 1 個につき 30 ~ 60 秒かけてやります.

  1. 分析して得られた文字とチェックポイントとを結びつけて文章やイメージができないか考え,思い付いたらそれで覚えると定める. 例:「大学」というチェックポイントで「いもふほ」という文字が分析された場合に,「大学に妹と父母がいる」というような文章やイメージを覚えようと決める.

  2. チェックポイントに関係なく分析して得られた文字そのものを単語にできないか考え,思い付いたらそれで覚えると定める. 例:「大学」というチェックポイントで「うみふた」という文字が分析された場合に, 「海」「豚」という単語を覚えようと決める.

  3. 分析して得られた文字をそのまま覚えると定める. 例:「大学」というチェックポイントで「ぬむ」という文字が分析された場合に,「ぬ」 「む」という文字を覚えようと決める.

これをキューブ5個分くらいずつやった後に1度目の確認 (思い出し) 作業に移りますが,その時には分析された文字が 98 ~ 100% 思い出せるようになっています.(やり方に関する解説はここで終わりです.以下,(4),(5)と考察がだらだら続くので読まなくていいやって人は(6)記憶のまとめまで飛んでください)

(4)記憶の種類

1度目の確認 (思い出し) 作業の際,私は大抵の場合,上記の「覚えようと決めたもの」を思い出しているわけではありません.言い換えると,1回目の分析・記憶において,「覚えようと決めたもの」を全て覚えきれているわけではありません.思い出し作業の大半は,覚えようとは思っていないけれど記憶に残っている,「分析・記憶をした記憶」を元に行っています.これは言わば思い出のようなもので,「先週BLD500企画をやって辛かった」とか「先週後輩とラーメンを食べに行って美味しかった」とか「昨日1時間キューブの練習をした」というような,誰でも自然と使っている記憶です.

この記憶のメリットは,

ことだと思います.この記憶によって,1度の分析・記憶で楽に覚えることが可能となります.

この記憶は,「覚えようと決めたもの」を覚えるのとは,根本的に何か違うような気がします.と,私が言ってもあまり説得力がないので,ちゃんとその道の専門家が言っていたことを参考に,記憶の種類について簡単にまとめてみます (情報源は某大学講義のレジュメ)

長期記憶は言葉で表すことのできる陳述記憶と言葉では表せない非陳述記憶に分けられ,陳述記憶は,意味記憶エピソード記憶というものに分けることができます.

意味記憶とは,辞書の項目のような知識の記憶 (ここでいう語呂合わせ・丸暗記等の「覚えようと決めたもの」) のことで,エピソード記憶は出来事に関する記憶 (ここでいう「分析・記憶をした記憶」) のことです.意味記憶がおおむね言語的であるのに対し,エピソード記憶は感覚的な内容も含みます.これらの記憶は,長期に保持されている脳の部位も異なるといった説もあるようです.※ただしエピソード記憶は、意味記憶のネットワークと繋がっている.

意味記憶は繰り返すことで増強されるのに対し,エピソード記憶は繰り返すことで弱まり,それに関連した意味記憶が強まっていきます (例えば最初のうちはラーメン屋に行った時の細かな状況を覚えているけど,だんだんお店の名前とかラーメンの名前とかの記憶の方が増強されていくってことだと思います).

実際私も最初の1回目の思い出し作業では「大学にあたる文字の分析・記憶をしていたときに,hogehogeと考えていて,fugafugaと感じて,poyopoyoな状態だった」といった思考過程や状況の記憶からその場所に当てられた文字を導出しますが,2回目以降に頭に上る時は,それらの付随情報が消えて,場所を思い浮かべると,重要な文字部分だけが反射的に出てくる状態になります (場所を思い浮かべなくても,前の文字をとっかかりとして後ろの文字がぱっと出てきたりもします).

恐らく,記憶に時間がかかる人は,多くの場合,最初から意味記憶を繰り返して記憶を定着させているんだと思います.もちろんその方法でも20個覚えることは不可能ではないと思いますが,繰り返す分だけ時間も労力もかかります.もし分析・記憶でエピソード記憶ができれば大幅に記憶時間を縮めることが出来るはずです!

(5) 分析・記憶する上で大事なこと

私は上で説明したやり方でやると大半がエピソード記憶となりますが,中には「書いてある通りにやってるのに出来ないんだけど・・・」って言う方もいるかもしれないので,個人的に大事だと思う部分をまとめてみます.

思い出に残ることというのは,印象に残ったことだと思います.自分自身が分析・記憶をしたことを思い出のように記憶するためには,分析・記憶をするという行為から印象を受けやすくなる条件を整えるのが大事です.

そこでまず大事なのは,「少しゆっくり分析・記憶する」ことです.私は3BLDを 12 ~ 20 秒くらいで分析・記憶するのに対し,MBLDでは1個あたり 30 ~ 60 秒かけます.もしひたすら繰り返して記憶を定着させるというならば,3BLD同様,分析・記憶はできるだけ速い方が良いと思いますが,一度で覚える場合,分析・記憶を速くやりすぎると,印象を受けられるものをスルーしてしまうかもしれません.

_/\○   ε=\_○ノ

実際,ゆっくり分析・記憶している MBLD では,3BLD の時には印象を受けないことからかなりの印象を受けます.少し例を挙げてみます.

※余談ですが、去年富士急行く途中で覚えたあれも、書かれている数字をゆっくり見ることで、このエピソード記憶を利用しました(多分)

また,分析・記憶の間に「一生懸命集中して考えること」もポイントだと思います.仮にゆっくり分析・記憶したとしても,ぼーっとしてたら覚えられません.ゆっくりやる間に場所に結び付けようとしたり語呂を作ろうとしたりして一生懸命考えるので,思考過程が頭に残りやすくなります.考えれば考えるだけ頭に残ると思います.ちなみに 3BLD の時は予め音で丸暗記しようと決めているので,音だけに集中することになり (ある意味何も考えていない状態です (私の先輩は多分普段何も考えてないです)),分析・記憶したことを思い出として記憶することができません.もし音だけで丸暗記して20個分の文字を長期記憶するならば,やっぱり何度か繰り返さないといけないと思います.

集中して考えることでどういう時に印象に残るか,こっちも例を挙げてみます.

以上の2点に気をつけたら,ひょっとしたらエピソード記憶ができるようになるかもしれないです.

それから,あまり触れませんでしたが,私も最初から語呂合わせや文字列丸暗記をしている部分もあります.なんだかんだエピソード記憶も混ざったりするので,純粋な意味記憶とは言えないかもしれないですが,ぼーっとしていない限りは,その部分も一度で定着します.そのコツは,

(6) 記憶のまとめ

だらだら憶測で書いてきましたが,私の MBLD の記憶の仕方を総括すると,『分析・記憶したという思い出の記憶を活用する』です(`´)

そしてそこに至る主なヒントは,

くらいだと思います.あまり役に立つアドバイスができなくてすみません・・・

4. おわりに

最後までお付き合いいただきありがとうございます.正直私は記憶の仕組みとか全く考えないでやってきたので,この解説は後付けであり,正しいのかどうか自分でも分からない部分があります.すみません.それでももしどこか参考にしていただけるところがあれば幸いです.20個に挑戦して失敗した時は本気で消えたくなると思いますが (私はACで23個に挑戦して失敗して死にたくなりました),目隠しを外して全部成功していた時は本当に感動します.一人でも多くの人にその感動を味わってほしいです.

本文でも述べましたが,誰にでも20個できるようになる力があります.それを使うか使わないかです!頑張ってください!

最後に,この記事を書くにあたって助言・編集協力してくださったWRCC Blindfolded Honorary Adviser みさわんさん,ブログの掲載を許可してくださったWRCCの神たくさん,写真を使わせていただいたこだまさんとあらしんさん (事後報告ですみません),執筆に御協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げます.

2014/12/30 WRCC 匿名希望 と Honorary Adviser

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